ALL富山COC+「とやま塾 in TOGA」

「とやま塾 in TOGA」レポート


開催日:平成29年9月12日~14日
【主 催】ALL富山COC+(富山大学,富山県立大学,富山国際大学,富山短期大学,富山福祉短期大学,富山高等専門学校)
【共 催】南砺市商工会利賀支部,(一財)利賀ふるさと財団
【参加学生】富山大学,富山県立大学,富山国際大学から12名
ALL富山COC+の合宿型セミナー「とやま塾in TOGA 2017」が9月12日から9月14日までの2泊3日の日程で行われ、富山大学、富山県立大学、富山国際大学の学生12名が、南砺市利賀村の過疎問題、少子高齢化など地域課題に対する認識を深め、その解決策を探った。

「とやま塾」は 、未来の地域リーダー育成を目指し、様々なプログラムを展開するALL富山COC+事業の柱の一つとして初めて開催された。今回は、県内でも深刻な過疎、少子高齢化の課題を抱えながらも、独創性のある様々な地域活性化事業に取り組んでいる南砺市利賀村で行われた。
 セミナーでは、学生たちが、①地域住民や、他の高等教育機関の学生と交流することで、コミュニケーション力を伸ばす。②利賀の自然や文化に触れることで、その良さを知り、富山への愛着を深める。③利賀に代表される地域課題を理解し、その解決策を協働しながら模索し、地域貢献の態度を醸成するとともに協働力、課題解決力を高めることをねらいとした。
1日目

初日はまず、宿泊施設「スターフォレスト利賀」にて、利賀村の歴史と現状、問題点を洗い出した。
 「利賀村基礎講座」では、「瞑想の郷」の浦辻一成館長が、縄文時代から現在に至るまでの利賀村の歴史を解説。利賀村の名前の由来となっている加賀藩との関わりや、硝煙、絹、林業など基幹産業の変遷を紹介した。また、最盛期には約4,600人だった人口が、2004年の市町村合併を経て、現在は約600人に減少。急速な人口減少は、65歳未満の世帯数が減少(転出)したことに起因しているなど、人口減少の推移も説明した。
  続いて、「利賀地域ふるさと推進協議会」の野原宏史会長が、「利賀地域の課題」と題して講演。平成27年に国の地域再生計画の認定を受けた「TOGA国際芸術村を核としたクリエイティブビレッジ構想」がスタート。さらに、平成28年の内閣府地方創生加速化交付金事業「南砺市エコビレッジプロジェクト 地域資源を活用した新たな産業の創出」が採択され、そのうち利賀地域で実施される「森の大学校による人材育成プロジェクト」や木質バイオマスエネルギーなどの「森林資源活用」について説明した。また、閉鎖された旧利賀スキー場と雪を活用した「冬のインバウンド観光・地域教育の拠点・冬のしごと創出」の取り組みを紹介した。しかし、平成29年1月に起こった地滑り被害で、現在は計画が中断。ピンチをチャンスととらえて、地域一丸となって戦略を推進する必要性を説いた。
 野原会長は、子育て世代や若者の移住定住に不可欠である「教育・暮らし・仕事の創生」を課題に挙げた。山村留学、芸術家や都市部の学生、外国人観光客との交流をさらに拡大させたいと話した。また具体的な事業を推進するため自己資金を調達する「クラウドファンディング」の活用も挙げた。

 これらをふまえて、3班に分かれ、グループごとに取り組むテーマを決定。1班は「地域おこし協力隊による利賀の活性化」。2班は「利賀農業推進計画」。3班は「合宿地としての地域活性化」をテーマとした。

 「市長・学長を交えた夕食会」では、地元側から、南砺市の田中幹夫市長、利賀行政センター長の宮下秀明氏、利賀地域ふるさと推進協議会長の野原宏史氏、利賀ふるさと財団事務局長の谷井進氏。大学側からは、富山大学の遠藤俊郎学長、鈴木基史副学長・理事、富山県立大の石塚勝学長、富山国際大の中島恭一学長、長尾治明「地(知)の拠点大学」事業推進室長が出席した。
 学生たちは食事を楽しみながら、利賀の未来や自分の夢などをざっくばらんに語り合った。

2日目

2日目は、活性化の拠点となっている現地の見学や、地元農家を訪問し、利賀地域の魅力と現実を実体験した。




《富山県利賀芸術公園》
「富山県利賀芸術公園」には、日本最大級の合掌造りの劇場、野外劇場など7つの劇場、稽古場、宿舎など の舞台芸術施設群がある。国際的に活躍する劇団SCOT(鈴木忠志主宰)の活動拠点として位置付けられてい るほか、演劇を通じて世界の人たちと交流する場として、多くの演劇人材を輩出している世界的な舞台芸術の 場である。  まず学生らは「利賀創造交流館・芸術劇場」で、過去に紹介されたテレビ番組の映像を鑑賞。旧利賀村の全 面支援により、劇団SCOTが利賀を拠点とするまでの経緯や、昭和57年に日本初の世界演劇祭「利賀フェステ ィバル」(平成20年より「SCOTサマー・シーズン」)が開催されて以来、世界の演劇人から“演劇の聖地”と も呼ばれるようになるまでの地道な取り組みなど、演劇や舞台芸術による成功事例を学んだ。合掌造りを利用 した「新利賀山房」 と、古代ギリシアに原型を求めた本格的な「野外劇場」を実際に見学し、観客と役者が一体感を持って観劇で きる劇場のスケールの大きさに見入った。


《瞑想の郷》
次に訪れた「瞑想の郷」は、旧利賀村時代に「そば」を介して交流を深めてきたネパール王国・ツクチェ村 との友好のシンボルとして、また「癒し」をテーマとした村おこしの一つとして建設された。学生らは、まず「瞑想の館」で展示物を見学。中でも、4メートル四方もある巨大な4面の曼荼羅に、圧倒 された様子で見入った。これはツクチェ村出身の絵師を招き、1年の制作期間を経て完成したもので、曼荼羅 に込められている意味など、細かな説明に聞き入った。続いて「瞑想美の館」でも2点の両界曼荼羅を見学し 、静かに瞑想体験もした。学生たちは、宿泊施設や売店も備えた施設群が独特の魅力を持つパワースポットと して人気を集めていることや、施設を利用してヨガセラピーの開催が行われていることに驚いた様子だった。




《そば打ち体験・山村農業体験》

利賀地域の特色として忘れてはいけないのが「そば」文化である。「そばの郷」では、実際に学生たちが「そば打ち体験」を楽しみ、「食」による活性化策を感じ取った。自ら打ったそばは隣接する「うまいもん館」で茹でられ、学生たちは感想を語り合いながら、そばを味わった。食後は、地元の農家の畑で山村農業体験が行われ、ウドの株分けに挑戦した。学生は大自然の中で、普段味 わうことができない経験に、笑顔で作業を楽しんだ。


夜は宿泊施設にて、利賀の魅力に魅かれて移住し、地元で活躍する「移住者との懇談会」が開かれた。「Ring Link」の谷内千尋代表、「moribio森の暮らし研究所」の江尻美佐子代表、ハロウィンかぼちゃ栽培事業者の吉田信一郎さんをゲストに迎えて懇談会を行い、実体験に基づくリアルな感想とやりがいなどを聞いた。引き続き,3人を囲んで夕食会も行なわれた。各グループの課題設定も次第に明確になってきており,夕食会やその後の懇談会を通してその課題に沿った具体的な情報を得ることができた。 ゲストが帰られた後,各グループで引き続き,解決策の検討や発表会の準備を夜遅くまで行った。

3日目

最終日は、3日間で学び、体験したことに基づき、グループワークによって課題解決につながる成果発表を 行った。3テーマで行われたプレゼンテーションには,今回の合宿にご協力いただいた皆さんをお招きし,学生の視点から考える利賀地域の問題解決への糸口をお聞きいただいた。お招きした皆さんからは,学生からの提案に対して温かいご意見をいただき,これを契機に引き続き利賀や富山との関わりを持ってほしいと,学生への今後の期待もお伺いした。

1班:地域おこし協力隊による利賀の活性化
2班:利賀農業推進計画
3班:合宿地としての地域活性化

閉塾式では、3大学長名による「とやま塾 in TOGA修了証」が授与された。

学生のコメント
富山大学 経済学部3年 岐阜県出身

班のみんなと「利賀農業推進計画」について提案しました。利賀を実際にバスや徒歩で回ってみると、本当に人が歩いておらず、人口減少や交通の不便さを実感しました。農業を営む高齢者の耕作面積は広く、今後担い手不足が深刻になると思います。利賀は世代間交流に力を入れていて、若い人や移住者の意見を取り入れてくれる風土があると思います。その利賀のよさ、ブランドを活かし、民間企業が利賀の農業に介入してもらうことで、人口や仕事場が増加。「利賀モデル」として全国発信できるのではないかと思います。またそれを視 察に来る人も増えるというビジネスモデルも確立できると思います。

富山県立大学 工学部3年 静岡県出身

利賀を訪れたことがなく、どんな所か知りたいと思い、参加しました。今回実際に地域を回ってみて、演劇の舞台がたくさん存在すること、そば祭りなどイベントをたくさん行っていることなど、単に「山奥の小さな地域」と思っていた利賀が,「活発な地域」と印象が変わりました。今回関わった利賀の住民の方々は,「利賀をなんとかしたい」という強い熱意を持っていると感じました。そんな支援体制が整った地域だからこそ,「地域おこし協力隊」や県外の若者など、おもしろい発想を持った人が集まっていくのではないかと思います 。

富山国際大学 子ども育成学部4年 富山県出身

大学では地域福祉を学んでいます。地域のつながりが薄れつつある時代に、自分も何かしら地域活動ができたら…。また、地域課題を解決する手法を学んでみたいと思い、参加しました。南砺市長と学長、移住者、住民の方々との夕食・懇談会では、地域について「若い世代(学生)にもっと頑張ってほしい」という思いを感じ取りました。その期待に応えていきたいです。「地域活性化」の問題は、生活に関連していると思います。 自分らしく、豊かに生活でき、誰もが活躍できる場であってほしいと思います。今回は、他大学の皆さんと利賀で交流し、共に考える時間を持つことができ、とても刺激になりました。

主催者側のコメント
富山大学副学長・理事 鈴木 基史

利賀の課題や数々の施設を、実際に聞いたり、自分の目で見たりして、問題解決の糸口がどこにあるか考え,提案できたことは、学生にとっていい経験になったと思います。地方創生の問題点は全国共通のテーマです 。地元の人、特に若い担い手の意識や、取り組みを学ぶことが大切です。学生の試行錯誤の経験と、新しい発想で出された提案が、利賀、富山だけでなく、学生の故郷など全国各地の問題解決に活かされることを期待し ます。

富山大学学長 遠藤 俊郎

利賀という非日常の空間で、3大学の学生が同じ目線で考え、楽しみ、恊働・交流できたのがよかったのではないか。また、利賀の移住者の方に話を聞くことができたことも、非常に参考になったと思う。学生のみなさんには、今後も新しいものに興味を持ち、挑戦していくことで、社会で必要とされる「リーダー」に育っていってほしい。